コップを手にバッグを抱え、
「じゃあね! 花音! またっ」
慌ただしく席を立つ。
テーブルの端っこや椅子の背もたれにぶつかりながら急いで行く後ろ姿を見つつ、彼女のいつも時間ギリギリ行動の裏はこんな事になってるのね……と苦笑。
基本、のんびり屋さんな朋絵だ。
アイスカフェオレを飲み、私はもう一度一人で笑った。
食堂は大きな窓が開放的で気持ちがいい。家の小さな窓から眺める空とここから見る空は同じなのに、四角の面積が変わるだけで随分と違って見える。
そういえば……。
窓の上部へ目をやって、空の高くを見つめた。
(お店の中庭から見る空は、もっと違って見えたな……)
澄んでいる。というか、綺麗というか。
表現が当たり前な感じでしか浮かばないけど、言い表すには難しい……次元の違う清々しさ……みたいな。そんな様な。
あの中庭が何といっても美しいからかも。
ホワイトローズ、ピンクローズ。淡い色彩の薔薇たち。流れる水の爽な音。足下の緑。
空気が高く空と重なる……。
――思い出すだけでウットリ出来た。
路地裏の秘密の花園を、朋絵がまだ知らないのはとっても残念。早い内に連れていってあげなきゃ!
私は、さっきまで朋絵に見せてあげていた授業のノートをバッグにしまった。忘れられたみたいに、お財布の下敷きになっているリップを取りだして唇に乗せる。
さてさて。私もそろそろ向かおうかな。
「みーつけた、花音ちゃん」
でも。
立ち上がろうとした私を制する様に、目の前の席に影がそう言って座って。
見事相手の思惑通り動きが止まった私。
「えっ!? 零さん……?」
まさかこの場で会うとは思わなかった人物に、一瞬見間違いかと自分の目を疑った。
がしかし、そんなことはなく。
目の前の人物は紛れもなく零さん、その人だった。
第一、この容姿をそう簡単に忘れる訳がない。大学の食堂では何だか浮いちゃってる気もする、雰囲気ある姿。
お昼のピーク時は越したものの、まだ多くの学生も食堂にいるので目立つ姿は注目を集めている。……主に女子に。