私はその日、大学の食堂で朋絵と昼食をとっていた。

あの迷子の男の子事件から数日。あの子のその後も曖昧に霞んだ結果になって、何となく消化不良な感じ。

それでもその消化不良分をうまく処理しようと、自分の中で少し前向きに気持ちが動き始めた頃だった。



「花音は午後休講だっけ?」

「うん、そう。今日はバイトも休みだし、お茶でもしにいこうかな……。朋絵は?」

「私サークルに顔出さなきゃなんだよね~。一緒に行きたかったな、あのお店行くんでしょ?」

「ん。朋絵まだ行ってないんだっけ?」


飲みかけのアイスティーそっちのけで、朋絵は化粧直しに余念がない。

リップを塗りながら、


「そうなの。何回か行ってみたんだけど、辿り着けなくてさ」


ふと手を止め、首を傾げる。

思わず頷いた。私も初めは着けるか不安だったもの。あれでは迷って見つけられなくても仕方無い。


「あの辺は裏路地で小さい道が沢山あるからねー。なんか、異国情緒漂ってるでしょ?」

「異国情緒……? うーん、まあそうかな? そんな感じでもある」


ほわん、とした口調で朋絵は言った。どうもピンと来ないみたいだ。

私は雑貨に目がないせいか、北欧とか南プロヴァンス、あんな感じの街並みにも興味が有るけど、朋絵はどちらかと言うとそっち向きじゃない。

ミステリーにハマり中な最近の彼女の異国情緒と言ったら……。そう、霧煙るロンドンの夜や二時間ドラマ枠で古都京都……?

そうなると、確かにあの店の周りの雰囲気とは違う。


「ね、今度一緒に連れてってね! 花音。……って、わ! もうこんな時間じゃん。行かなきゃ!」

「ていうかさ、朋絵。いつの間にサークルなんて入ったの?」

「知り合いに誘われてね。花音も入る? ミステリー研究会」

「……うーん。遠慮しとく」


急いでるんだと思うんだけど、テーブルに散らばるリップや手鏡、ミント味のキャンディをバッグにしまう朋絵の手はのんびりだった。


「そういえば、田所さんもミス研入ってたんだよ!」

「えっ!?」

「ま、当然の如く幽霊部員だけどね」

「…………だろうね」


ふふっ、と笑った朋絵は残りのアイスティーを飲んで。

そこからは行動が速かった。