「彼女からは手を退きなさい。ちなみに、君に選択肢はない。お分かりですね?」

「何を……。そんな事言われて“ああそうですか”と簡単に諦めるかよ」


チャンスなんだからな、零は呻く様に低く呟いた。


「あの魂は俺を…………」

「君も諦めが悪いですね」


深い溜息とともに、紡の声が響く。


「無意味なチャレンジほど馬鹿を見るものは無いですよ」


命が惜しいでしょう? そう言うと零の目をじっと見、


「手を出したら殺しますよ。……それこそ魂の欠片、塵ひとつ残らぬよう消して差し上げます」


紡は嘲笑(わら)った。

無慈悲で冷酷な、静かな微笑み。


「………」


それを受け止める零も口元を歪める。

真っ向から戦いを挑む強気な視線を目の前の男へ飛ばして。


「言っただろ? 最終的に決めるのはあくまであの子なんだよ。お前が必死になってみても、肝心の本人が拒否したらそこで終わりさ」


見てろよ紡、と不敵に笑い、零はきびすを返し店の奥へと向かう。

暗い闇へ消える直前、彼はぼそりと呟きを残した。


「人間は脆いからな。それに、明るければ明るいほどその近くにある闇も濃くみえるもんだろ?」


花音は大層明るい光をお持ちだ、楽しみだよ。


楽しそうな声が最後に響き、そして、闇に溶けて行った……。