チッと舌打ちを漏らす。明るい色の眼鏡を外した零は、いい加減にしろよ、と言葉を吐いた。


「紡……ホントお前、いちいちムカつく」


ゆらりと空気が揺れた。零の周りの空気が、炎が揺らぐ様に静かに動き、紡とはまた違う威圧感を含んだそれになる。

ひゃっ、とナユタは短い悲鳴を発した。小さな体を弾ませカウンター奥へ跳び、セツナの後ろへ隠れる。

やがて、おずおずとオッドアイが二つの影を盗み見てきた。

それを知ってか知らずか、くっと喉の奥で笑いを漏らした紡。零へ肩を竦めて見せる。


「零……勘違いされては困りますね」


やれやれ……といった風に苦笑する紡に零は当然苛立ちを見せたが、次に向けられた言葉に彼は口をつぐんだ。

言葉が出ない。

紡の冷たい嘲笑は空気をも冷やす。時間まで凍った瞬間だった。


「君がまさか私と対等にやりあえると思っているとは……。私も随分甘く見られたものです」


今の紡に、穏やかな色は欠片も見えなかった。

弧を描く口元さえ、形とは真逆の感情を。

薄い感情表現しか見せないセツナも、この時ばかりは瞳と頬を強張らせていた。