結城さんも案外可愛らしい所があるじゃないか……と思った。

 必死になったり、照れてみたり。完璧さの影に見えるごくごく普通の顔。見れて良かったかも。

「あ、忘れるところでした」
「え?」
「花音さんにはお返しをしなくてはいけませんね」
「はい? お返し?」
「お砂糖と、花音さんのお時間をお借りしましたので」
「え!? いやいやいや、いいですよ、そんなお返しなんてっ」

 どうもさっきから、結城さんの発言は大袈裟だ。

 お返しって……ねぇ……

 お砂糖は確かにここにあるけど実際は使ってない訳だし(口実には使われたが)。

 時間だって、「貸してあげた」というつもりなんかさらさらない。そりゃあ確かに「時間貸して下さい」って誘われたけど……。

 でも……。

「貸したっていうより、私がお邪魔してるって感じじゃないですか? それに、美味しいご飯までご馳走になっちゃったし」

 むしろ、お返ししなくちゃいけないのは、私の方かも。

 あははっ、と笑って言った。軽ーいノリで言った言葉。受け止めた結城さんも「いえいえ、そんな」って笑って、はい解決!

……の予定だった。少なくとも私の中では、そういう感じでいち早く解決してみた。

 が、予定は大いに狂う。

 私の言葉に、結城さんはクスッと笑った。確かに笑った。

 だけど、その笑みは私が想像していたような穏やかなモノじゃなく。勿論、さっき見せた照れ笑いでもない。

「花音さん」

 結城さんが長身を近付けてきたので、私は反射的に後ずさりした。

 何かが違う。そう咄嗟に思ったのだ。今、結城さんが口にした呼び声は……何だか危険な音がする……。そう感じた私の体は、無意識の内にゆっくりと後退を続けた。

「やっぱり貴女は……警戒心がある様で無い、無防備な方なんですね」

 低い声は凄艶を隠さない。

 扇情的、官能的……そんな表現にぴったり当てはまる声音。

 それを響かせながら、じりじりと長身が距離を詰めてくる。あっという間に、私は壁際に追いつめられた。

「ゆ、結城さん……?」
「だから、狙われてしまうのですよ?」
「へっ!?」
「……最初に忠告してあげたのに。そんなに攫われたいんですか?」

 壁に追いつめられた体は結城さんの腕で囲まれる。完全に退路を塞がれてしまった。そして至近距離。恐る恐る見上げ……私は絶句。

「それに……駄目ですよ花音さん。あまり迂闊な事を言っては」

 鋭い光を放つ綺麗な瞳。それはまるで捕食者の目で。こんな目を向けられた方はたまらない。体が勝手に動かなくなる。たちまち私の体は微動だに出来なくなった。

「言ってしまった言葉は取り消せないのですから」

フッと笑みを漏らす結城さんに、背中がぞくりと(あわ)立つ。言葉と共に美麗な顔が間近に迫ったからだ。


「場合によっては大変な目にあいますよ?」


羞恥と緊張で、ポットを持つ手に汗が集まってくる。

過去最上級の艶美さをぶつけられて、私の頭はクラクラした。