◇
4月18日。年に一度の一大イベント、それはシュンの誕生日だ。
一大イベントと言っても大したことをするわけじゃない。ただ毎年、シュンは私の家に来て一緒にご飯を食べる。お母さんもお父さんも小さい頃からシュンのことを知っているから、本当の息子のように誕生日をお祝いするんだ。
わたしの誕生日より手の込んだ手料理と、スポンジからすべて手作りのケーキまで用意する始末。シュンは毎年申し訳なさそうに、それでいて珍しく頬を緩めてお礼を言う。
そんなシュンの姿を見ることができるのは年に数回あるかないかなので、私もはりきって部屋の飾り付けやらご馳走の準備やらを手伝うんだ。
昨日も夜な夜なお母さんと今年はなんの料理にするか、どんなケーキにするか話し合って起きるのが遅くなってしまった。
きっと、お母さんもハルカがいなくなった時にひどく悲しい思いをしたんだろう。私たち3人は小学生の頃からずっと一緒に過ごしていたから、ハルカのことだって実の娘のように思っていたはず。私がハルカの話をしないことに気を使ってか、お母さんもお父さんも、ハルカの葬式以来、そんな姿は一瞬たりとも見せないけれど。
もうあんな思いはしたくないとでもいうように、まるで我が子のように私の幼馴染を愛でるのだ。
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「あーおなかいっぱい、ケーキまで食べちゃった」
無事に終わった誕生日パーティーの終わり。私はお腹をさすりながら椅子の上でうなだれる。
年中ダイエット中だというのにね。今日は仕方ないか。
ポップに飾られたリビングと、ほとんどお腹に消えてしまった豪華な料理。それから半分になったケーキ。嬉しそうなお母さんとお父さんの顔に、シュンは珍しく頬を緩めている。幼馴染といえど他人の親なので、さすがに困ることもあるだろうにね。
何年経っても、友達の親というのは距離感が難しいものだよね。
「ご馳走様です、毎年ありがとうございます」
礼儀正しく、照れ臭そうに、そう言って頭を下げる。シュンらしい。毎年恒例だけれどね。
「いいのよー、きてくれるだけで嬉しいんだから!」
「シュンくんも18歳か、早いなあ、初めてうちに来た時は確か小学生だっけ? あの頃からナツノは友達をつくるのが下手だったのに、シュンくんだけにはいつも心を開いてたもんなあ」
「そんな昔の話はやめてよ、おとーさん」
「はは、ごめんごめん、でもありがたいよ、娘とこうしてずっと仲良くしてくれてる友達がいるなんてさ」
「ふふ、シュンはもううちの子みたいなものよねえ」
お母さんもお父さんも上機嫌で昔のことを懐かしんでいるようだ。
友達を作るのが下手、なんて本当に親は子供のことをよく見ている。私は誰に対しても人当たりがいいし明るく振る舞えるけれど、友達、と分類されるものをつくることはひどく苦手だ。浅く広く、知り合い程度の人たちにはあまり興味がない。興味がないから、やさしくできる。スミくんだって同じだ。
それにしても、お酒が入るといつもこう。特に今日は張り切っていつもより量が多いから、もっと無駄話に付き合わされそうだ。
やれやれと腰を上げて、「そろそろシュン帰るから送ってく」と手招く。お母さんが「もう帰るのー? 泊まって行きなよ、昔はよくうちに泊まりにきてたじゃない」なんて寂しそうにしていると、シュンが珍しく「あの、」と口を開いた。
「お言葉に甘えてもいいですか?」
「え、」
「もちろんよお、ナツノ、部屋に布団敷いてあげなさい」
お酒を飲んだお母さんは良し悪しの区別もつかなくなってしまったんだろうか、それともまだ私たちのことを小さな子供だと思っているのだろうか。
ハルカはいない。わたしたちはもうふたりぼっちだ。
泊まるとなれば、部屋に余りのないこの家で、寝る場所は私の部屋しかないのに。
4月18日。年に一度の一大イベント、それはシュンの誕生日だ。
一大イベントと言っても大したことをするわけじゃない。ただ毎年、シュンは私の家に来て一緒にご飯を食べる。お母さんもお父さんも小さい頃からシュンのことを知っているから、本当の息子のように誕生日をお祝いするんだ。
わたしの誕生日より手の込んだ手料理と、スポンジからすべて手作りのケーキまで用意する始末。シュンは毎年申し訳なさそうに、それでいて珍しく頬を緩めてお礼を言う。
そんなシュンの姿を見ることができるのは年に数回あるかないかなので、私もはりきって部屋の飾り付けやらご馳走の準備やらを手伝うんだ。
昨日も夜な夜なお母さんと今年はなんの料理にするか、どんなケーキにするか話し合って起きるのが遅くなってしまった。
きっと、お母さんもハルカがいなくなった時にひどく悲しい思いをしたんだろう。私たち3人は小学生の頃からずっと一緒に過ごしていたから、ハルカのことだって実の娘のように思っていたはず。私がハルカの話をしないことに気を使ってか、お母さんもお父さんも、ハルカの葬式以来、そんな姿は一瞬たりとも見せないけれど。
もうあんな思いはしたくないとでもいうように、まるで我が子のように私の幼馴染を愛でるのだ。
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「あーおなかいっぱい、ケーキまで食べちゃった」
無事に終わった誕生日パーティーの終わり。私はお腹をさすりながら椅子の上でうなだれる。
年中ダイエット中だというのにね。今日は仕方ないか。
ポップに飾られたリビングと、ほとんどお腹に消えてしまった豪華な料理。それから半分になったケーキ。嬉しそうなお母さんとお父さんの顔に、シュンは珍しく頬を緩めている。幼馴染といえど他人の親なので、さすがに困ることもあるだろうにね。
何年経っても、友達の親というのは距離感が難しいものだよね。
「ご馳走様です、毎年ありがとうございます」
礼儀正しく、照れ臭そうに、そう言って頭を下げる。シュンらしい。毎年恒例だけれどね。
「いいのよー、きてくれるだけで嬉しいんだから!」
「シュンくんも18歳か、早いなあ、初めてうちに来た時は確か小学生だっけ? あの頃からナツノは友達をつくるのが下手だったのに、シュンくんだけにはいつも心を開いてたもんなあ」
「そんな昔の話はやめてよ、おとーさん」
「はは、ごめんごめん、でもありがたいよ、娘とこうしてずっと仲良くしてくれてる友達がいるなんてさ」
「ふふ、シュンはもううちの子みたいなものよねえ」
お母さんもお父さんも上機嫌で昔のことを懐かしんでいるようだ。
友達を作るのが下手、なんて本当に親は子供のことをよく見ている。私は誰に対しても人当たりがいいし明るく振る舞えるけれど、友達、と分類されるものをつくることはひどく苦手だ。浅く広く、知り合い程度の人たちにはあまり興味がない。興味がないから、やさしくできる。スミくんだって同じだ。
それにしても、お酒が入るといつもこう。特に今日は張り切っていつもより量が多いから、もっと無駄話に付き合わされそうだ。
やれやれと腰を上げて、「そろそろシュン帰るから送ってく」と手招く。お母さんが「もう帰るのー? 泊まって行きなよ、昔はよくうちに泊まりにきてたじゃない」なんて寂しそうにしていると、シュンが珍しく「あの、」と口を開いた。
「お言葉に甘えてもいいですか?」
「え、」
「もちろんよお、ナツノ、部屋に布団敷いてあげなさい」
お酒を飲んだお母さんは良し悪しの区別もつかなくなってしまったんだろうか、それともまだ私たちのことを小さな子供だと思っているのだろうか。
ハルカはいない。わたしたちはもうふたりぼっちだ。
泊まるとなれば、部屋に余りのないこの家で、寝る場所は私の部屋しかないのに。