あれから一日経ったけど、私はあの人の家に帰らなかった。
 帰れなかった。


 あの人は私じゃなくて、私を違う人として見ていた。
 それがわかったのに、あの人のそばにいることなんてできるわけなかった。


 一か月もあの人といたのに、私はそれに気付けなかった。
 あの人の優しさは、ハルっていう人のためのものだったんだ。


 私の味方じゃ、なかったんだ。


 嫌いだったあの人に、信じたいと思ってしまったあの人に、嫌われて。
 私は……


「あの人のことが嫌いだったわけじゃない……?」


 いや、そんなわけない。だいたい、私は……


 ……待って。


「私、どうやって彼と付き合ったんだっけ……?」


 たしかに恋人同士だと思うのに、思い出せない。
 それだけではない。彼との思い出が、ない。


 忘れたのか。
 なんとも言えないこの空白感は……記憶喪失?


 いや、そんなドラマみたいなこと、あるわけがない。
 だいたい、私は自分の名前もどういう人生を送って来たのかも、ちゃんと覚えている。


 だけど、彼のことは覚えていない。


 彼のことだけを忘れた?どうして?
 あの女との浮気を知ったから?


 いや、違う。
 あの女との浮気現場を見て、逃げて、あの人と出会ったんだ。


 だから、彼のことだけを忘れたわけじゃない。
 彼の浮気のショックで記憶を失ったわけでもない。