だけど、そこまで遠くに行かせてもらえなかった。


 私のことを迷惑に思っているくせに、その人は私を引き留めに来た。


「……離して」
「どこにいくつもり?」
「関係ないでしょ。私のことなんか、迷惑で仕方ないんでしょ?ほっといてよ」


 逃げたくても、その人の掴む力が強くて逃げられない。


「君を一人にするわけにはいかないんだ」


 嘘だ。


 そう思うのに、私はやっぱりこの人の言葉を信じてしまう。
 信じたいと思ってしまう。


 私は一人になることが怖かった。


 みんな私の敵で、この人だけが私の味方だと心のどこかで思いたいと願っているらしい。


「さ、戻ろう」


 初めて出会ったときみたいに手を引かれるけれど、私は足を踏ん張った。
 ここにとどまりたいと言わんばかりに、まるで小さな子供が駄々をこねるように、動かなかった。


「どうした?」
「……あの女がいる家になんて、帰りたくない」


 すると、その人は笑みをこぼした。


 今のどこに、笑う要素があったのだろう。


「君は僕の家を、自分の家だと思ってくれているんだね」


 しまったと思った。
 私はその人に掴まれていない右手で口を塞ぐ。


「うれしいよ。君は行く場所がなくて仕方なく僕の家にいるんだと思っていたから」