話の内容が気になった私は、音を立てないように部屋を出る。
 二人の目に入らない影に潜み、会話を盗み聞く。


「ねえ、まだあの人、ここにいるの?」
「まあ……」


 私の話題だった。耳を塞ぎたくなる衝動に駆られるが、我慢して服の裾を握る。


 言葉を濁したくなるくらい、迷惑かけていたのか。
 ここにいてもいいと言ってくれたのはあの人なのに。


 私はその言葉に、大人げなく甘えているだけ。
 赤の他人の言葉に甘え、ずるずると居候を続けている。


「嫌なら嫌って言ったら?ああいう人にははっきり言ったほうがいいよ」
「そうは言うけどな……」
「ま、いいならいいけど。私は苦手なんだよなあ」


 聞き捨てならなかった。
 女の言葉を聞いた瞬間、私は二人の前に飛び出てしまった。


 そして私は女の頬を叩いた。


「な……」


 女もあの人も言葉を失う。


「あんたに好かれたいと思ってない!あんたこそ、人としてどうなの!?人の恋人奪っておいて!そのうえ、元カレにもこうして会いに来るなんて!」


 あの人は頭を抱えてしまっている。


 ああ、やっぱり迷惑なんだ。
 私は、ここにもいないほうがいいんだ。
 最後の居場所だと思ったのに。


 私はそのまま家を飛び出した。
 あの人が呼び止めるようなことを言ったけど、気にしなかった。


 どこに行くわけでもない。
 ただ人目を避けて足を進める。