それに耐えられなかったから……


「なんか、悪いことしたな」
「ヒナが苦しんできたことに比べたら大したことないと思うけど」


 リクの言葉に、私は首を横に振る。


「信じてた人に裏切られることほど苦しいことはないよ」


 それは、私があの人に対して思ったことだった。


「ヒナは優しいね」
「そんなことない……」


 他人にあたり散らかしていた私は、そう言われていい人間じゃない。
 優しさのかけらもない。


「……ヒナ」


 リクが柔らかい声で私を呼ぶ。
 そして私はリクの匂いに包まれる。


「戻ってきてくれて、ありがとう」


 リクの泣きそうな声につられて、私の涙腺が刺激された。
 静かにリクの肩を濡らす。


「これからさらにつらいことがあるかもしれないけど、それよりももっと楽しいことがあるはずだから。だから、ずっと俺のそばで笑ってて」


 もう涙は止まらなくて、私はリクの腕の中で何度も頷いた。


 翌日、アキとあの人がお見舞いに来てくれた。
 アキは昨日のリクみたいに、泣いて喜んでくれた。


 そしてそれから他愛もない話題で私たちは雑談をした。
 私は、この時間がずっと続けばいいなと思った。


 リクが言ってた通り、苦しいことがあるかもしれない。
 だけど私は、今日のような小さな幸福を見つけながら生きて、その苦しみを乗り越えたいと思う。