その瞬間、私は明希を突き飛ばした。


「……知ってるの」


 疑問符をつける余裕も、演技をする余裕もなかった。


「ええ、知ってます。ヒナが消えるとき、一緒にいましたから」


 明希はまた笑顔を見せるけど、目が笑っていなかった。
 そんな明希に、恐怖さえ感じた。


「ねえ、ハルさん。自分を偽って、演じて、他人をだまして……そうまでして、何が欲しかったんですか」


 私が、欲しかったもの。
 それは……


「他人の肯定。私がここにいてもいいんだって思いたかった。……理久に、あいつの代わりじゃなくて、私を見てほしかった」
「あいつって、ヒナ?」


 頷く。
 言葉にしてみれば、ずいぶんくだらないものが欲しいと願っていたのだろうと思った。


「津村がヒナに優しかったのは、そうしたいと思える人間だったからです。表面じゃなく、性格です」


 私にはなくて、あいつにはあるもの。
 それは……素直さだろう。私はあそこまで、子供のように素直に自分の思いをさらけ出すことができなかった。
 怖かった。受け入れてもらえないのでは、否定されるのでは、と思うと、隠すしかなかった。


「……もういいですか」


 突き放されるような声に、思わず袖を掴んでしまった。
 明希は驚いたのか、私の顔を見る。