優翔は視線を落とす。


「まさか……本当にしてたの?」


 優翔は何も言わない。それは、肯定の沈黙だろう。


 足に力が入らなかった。
 私はそれ以上優翔の顔を見ることができなくて、走って逃げた。


 その途中、見覚えのある後ろ姿を見かけた。


「……明希ちゃん!」


 私は彼女、明希の肩を掴んだ。
 明希は振り向いたけど、とても冷たい目で私を見てきた。


 そして、その冷たい表情をなかったことにするように、明希は微笑んだ。


「こんにちは、ハルさん」


 明希の笑顔に、安堵のため息が出る。


「こんなところでどうしたんですか?」
「えっと……優翔さんが、浮気してたみたいで……逃げ出してきちゃった」


 私はショックを受けているような演技をしてみせる。


 これ以上、自分の否定されるようなことがあれば、私は……


「……ごめんね、明希ちゃん……こんなこと、聞きたくなかったよね……」
「お兄ちゃんの浮気なら、知ってましたよ」


 まさかの言葉に、私は顔を上げる。
 明希はまた冷たい視線で私を見下ろす。


「ハルさんが他人を思いやれない人間なら、浮気されても仕方ないですよ。……そんな人だとは思わなかった。まだ、ヒナのほうがよかった」