「……これがなに」
「ああ、そっか。君はアイツの名前を知らないのか。これは……君から恋人を奪ったっていう子からのメッセージ」


 すべての動きが止まった。体が固まった。
 黒い塊に潰されるような感覚に、また襲われる。


 ぬるま湯に浸っていたか。
 嫌いなこの人との生活のおかげで、あの絶望が薄れていたらしい。


 小さく息を吐く。


「……縁、切ってなかったの」


 違う。そんなことが言いたいわけじゃない。


「切りたくても切れないんだ」


 その人は笑顔を取り繕う。


「私に出てけって?」


 かわいくない言い方をしているのは重々承知。
 だがあいにく、この人に見せるそれは持ち合わせていない。


「いや、隠れててってこと。会いたくないでしょ?」


 たしかにその通りだ。
 いつもは家から出ないが、今日は部屋から出ないことにしよう。


 朝食を終えると、さっそく部屋にこもる。
 特にすることもなく、ベッドの中に潜った。


 カーテンも開けていない薄暗い部屋で、小さくなった雨音を聞く。
 その雨音に眠気を誘われ、いつの間にか眠ってしまった。


 そのせいでどれだけ時間が経ったのかわからず、時計を見ようと体を起こしたとき、部屋の外から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。