「そしたら……ヒナは苦しまなくてよくなるだろ」


 リクは優しく、だけど切なく笑った。


「ヒナがいなくなると、ハルが、ヒナが経験してきた倍以上の苦しみを味わうようになる。ハルには、幸せが似合わない」


 憎しみのこもった声を最後に、リクは口を閉じてしまった。


「お兄ちゃんは……今のこと、知ってたの?」


 あの人は頷く。


「理久君に協力してほしいって言われて……」
「だとしたら、協力者を間違えたね、津村」
「ああ。ここまで気弱な人間だとは思わなかった。まさか、嘘をつくことすらできないなんてな」


 リクに言われて、その人は肩をすくめた。


 リクがそう言うってことは、本当に私を消そうと……
 でも、それは私を守るためで……


「ヒナ、大丈夫か?」


 リクの優しい声で、ますますわからなくなる。


「リクは、どうして私のために、そこまで……」
「好きだからだよ。小さいころからずっと、ヒナが好きだった。だからヒナと離れたくないって親にわがまま言った」


 言葉にできないような嬉しさに、涙がこぼれた。


 私という存在が、認められたような気がした。


「俺は、両親と妹を失ったヒナに、何もできなかった。ハルになったとき、めちゃくちゃ後悔した。ハルに話を聞いたとき、守りたいと思った」