あの人は言葉を詰まらせる。


「あれは……」


 視線を落とした。
 逃げる気なのか。話さないつもりなのか。


 もう、そんなことさせない。
 偽りの優しさに甘えるつもりはない。


 いや違う。この人が見せる戸惑いは、私に対する優しさではない。
 ただの、弱さだ。


 その弱さを、私が勝手に優しさだと思っていただけだ。


 この人に、そんな優しさはない。


「本当のことが知りたいの。そして、それをハルにも言って」


 ずっと、同じままでいたって仕方ない。
 どうせ消えてしまうのであれば、すべてをいい方向に変えて消えたい。


 未練は絶対に残さない。
 私の意志で消えることができるかなんてわからないけど、それでも、ハルが私を求めてきても、私は現れない。


 だから。


「……変わったね」
「え……」
「最初は全然心を開いてくれなかったし、そんなに強くなかったのに。この世のすべてに絶望し、壊してしまいそうな子だったのに」


 その人の言う通りすぎて、返す言葉もない。


「……逃げても無駄ってやつなんでしょ?」


 その人は諦めてくれたのか、真剣な表情をして言った。


「俺はハルに戻ってほしくない」