「はあ?さっきと言ってたことと違うんですけど」


 アキは不服そうにする。
 私も、どうしてリクが急に慌てだしたのか、わからない。


「明日になったらハルに戻るかもしれない」
「なんでわかるの」
「……ヒナ、自分でわかるな?」


 リクに言われて、少し考える。


 ……ああ、そうか。リクを呼んだことがちょっとした幸せとなり、今からゆっくり過ごしてしまうと、さらに幸せになってしまうってことか。


 私は首を縦に振る。


「ごめんな、ヒナ」


 リクは私の頭の中でも覗いたかのようなことを言った。そのままリクはコップを洗い始めた。
 そしてアキはじっと私を見てきた。


「何?」
「ヒナって本当にかわいそうだなと思って」


 その言葉に思わずむっとしてしまう。


「同情は」
「違う違う。言葉のチョイス間違えたな。なんていうか……誰にでも平等に与えられたはずの幸せになる権利を奪われるなんて、どれだけつらいことなんだろうって思ったの。それなのに、ずっと耐えてきたヒナはすごい子だよ」


 アキは私の頭をそっとなでる。
 目頭が熱くなったけど、目を閉じて涙が落ちるのを堪える。


「二人とも、準備できたから行こう」


 いいタイミングで声をかけてくれたリクに感謝しながら、私たちはリクの家を出た。