彼の言葉を遮るように、アキが机を叩いた。机上に置かれたコップの中の水面が揺れる。


「お兄ちゃんが浮気してたって言うの?」


 さっき自分でたどり着いたことなはずなのに、アキは怒りをあらわにした。


「じゃあどう考えるんだよ」
「それは……」


 彼は小さく息を吐く。


「やることが決まったな。本人に話を聞きに行こう」


 彼はそう言うけれど、私とアキは立ち上がることができなかった。
 私とアキ、きっと違うことだろうけど、ショックでそれどころではなかった。


「ちょっとだけ……ちょっとだけ、整理する時間もらえないかな」
「私からも、お願いします……」


 立ち上がろうとしていた彼は、上げかけていた腰を下ろしてくれた。


「……ごめん、津村」
「気にすんな」


 乱暴な言い方だったけど、そこには確かに彼の優しさがあった。


 そういえば、私、彼の名前を知らない……


「あの……名前、聞いても?」
「津村理久」
「……リク……」


 意味もなく彼の名前を呼ぶ。
 ただそれだけなのに、どこか幸せな気分になった。


「ちょっ……成海、整理する時間、なしで」


 リクは慌てた様子で三つのコップを持って立ち上がる。