普通はそうだろう。つらいことがあったら人格が変わるなど、誰が信じる。


「でも、それ以来何度もヒナが現れた」
「……待った」


 私よりも先に、アキが手を挙げた。


「ヒナと津村は面識があったってこと?」


 彼は頷く。そしてアキは私を睨んできた。


「それなのに、私と津村が浮気って……あんたの記憶、どうなってんの」


 私だって、アキと同じことを思った。自分の記憶がここまで捏造されていて、頼りにならないとは思わなかった。


「まあでも、ヒナはたまにしか出てこなかったし、つらいことばかりだった。その記憶が大きすぎて、ほかのことはよく覚えてないんだよ」


 彼が私をフォローするように言ってくれた。


「でも、こんなに長いことヒナでいるのは初めてだ。何を感じた?」
「感じた?」
「無意味にヒナになることはない。ヒナも、少しくらい嫌なことはわかるだろ?そうじゃなかったら、自分だけがつらい目に遭ってるとは思わないだろうし」


 言われてみると、そんな気がしてくる。
 あのとき、私は……


「私に、恋人がいて……その彼が、浮気をしてるって……」
「ヒナはハルの恋人を知らなかった。だからヒナに変わった瞬間、偶然目の前にいた俺を恋人だと思い、成海といるところを見て、俺と成海が浮気をしていると思った。……たぶん、そういうことだと思う」