「……大丈夫」


 この流れで大丈夫ではないと言って、話を止めるわけにはいかないと思った。これ以上聞いて嫌な思いはしたくないと思ったが、それでも私が聞かなければならない話だと思った。


 だけど、うまく言えていなかったのか、アキの心配そうな表情は消えなかった。


「話、続けてもいいか?」
「ちょっと、ヒナがショックを受けてるんだから、少しくらい」


 私はアキの服を引っ張った。それと同時に、アキは言葉を止める。


「本当に、大丈夫だよ。今逃げても、仕方ないと思うし……いつか聞かなきゃいけないなら、今聞く。それに……私っていう逃げ道を潰さなきゃ、ハルはずっと嫌なことから目を背け、逃げる人生を送ることになる」


 アキに話しているうちに、少しずつ話を聞く覚悟ができてくる。これはアキに言っているようで、本当は自分に言っているようなものだった。


「私もハルも、強い人間にならなきゃいけない。だから……続けて」


 彼をまっすぐと見つめて言うと、彼は頷いてくれた。


「まず、ハルが俺の家族になったのは十二年前。そのときすでにハルの精神状態は最悪だった」
「なんで?」


 アキの質問に、彼は言いにくそうに視線を逸らす。


「……両親を……同時に失ったからだ」