「成海、ハル……じゃなかった。今はヒナか」


 彼は私のことを知っているみたいだった。


「どうぞ」


 私たちは彼の家の中に入る。彼は一人暮らしみたいで、お世辞にも綺麗な部屋だとは言えなかった。


「成海、適当に座っといて」
「はいはーい」


 アキは慣れたように散らかった荷物を端に置き、二人分の座る場所を作った。そしてそのまま座る。
 私はもう一つ、開いた場所に腰を下ろす。


「成海っていうんだ」
「うん。成海明希。明るい希望って書くけど……私のどこに明るさやら希望があるのかっていうね。完全な名前負け」


 アキは自虐的に笑う。
 その笑顔が、なんだか気に入らなかった。


「……少なくとも、今の私にとってアキは希望そのものだよ。明るさは感じられないけど」
「なにい?」


 冗談が通じたのか、アキは私の頬を両手で挟んだ。


「いつの間に仲良くなったんだよ」


 お茶を準備していた彼が、ローテーブルにコップを並べた。そして荷物の上に座る。


「ちょっとね。で、今日は話を聞きに来たんだけど」
「ハルヒナのことか」


 お茶を飲みながら、さらっと言った。


「やっぱり知ってたんだね、津村は」
「そりゃまあ、十年以上の付き合いだし」