おぼつかない足取りで歩道を歩いていた私は、何度もいろんな人とぶつかっていた。
 その途中、バランスを崩してしまった。


「大丈夫?」


 そんな私に声をかけてきたのが、あの人だった。
 神かと思った。この地獄から救ってくれそうな、優しい笑顔だった。


 私はその笑顔に騙されて、その日あったことをすべて話した。
 すると、あの人は同情のような表情を見せた。


 話を聞けば、女はその人の元恋人だという。


 信じられなかった。


 結局私には地獄しか待っていなかった。


 逃げたかった。
 だけど逃げたくても、行く当てがない。


 心に大きな闇が生まれ、その闇に飲み込まれてしまうような気がした。


 その瞬間、私の感情を抑えていたはずの何かが消えた。
 私は目の前にいるその人に八つ当たりをした。


「なんで私ばっかり!せっかく、せっかく手に入れた幸せだったのに!なのになんで!なんで……」


 私は人目も気にせず、泣き喚いた。


 なんとも子供じみたことをしたと、今でも思う。
 どう考えても、その人は悪くない。悪くなかった。


 すると、その人は着ていたパーカーを私に着せ、フードを被せた。


「ちょっと我慢してね」


 その人は私を連れて人混みをすり抜けていく。
 手首を掴まれているが、そこまで強い力ではなかった。
 逃げようと思えばできた。