「緊張してんの?」


 その人の家に行く途中、アキが意地悪い顔をして聞いてきた。


「……私にとっては、初めて会う、から……」
「まあ……そうだよねえ……」


 まだ何か言いたいことがありそうだった。
 でも、自分からそれを促すことはできなくて、私は黙ってアキの横顔を見る。


 私の視線に気付いたアキが私のほうを向く。


「今から会うのは、ハルさんの義理の弟」
「義理?」
「その辺はそいつに直接聞いてね」


 アキはそう言って足を止めた。
 そこを、私は知っていた。


「ここって、アキの……」


 彼氏の家?と続けようとしたら、両頬をつままれた。


「彼氏じゃなくて友達。高校の同級生」
「でもあの日、家にいたよね……?」
「高校の同窓会の後で、何人かでお泊り会しようってなって。あいつの家に泊まってたの」


 つまり、二人は付き合っているわけではない……


「だいたい、お兄ちゃんの恋人の弟と恋人関係になるって、なんか嫌なんですけど」


 言いたいことはなんとなくわかる。


「さ、とりあえず話を聞いてみよう」


 アキはそう言ってドアをノックした。
 鍵を開ける音がして、ドアが開く。出てきたのは当然、彼だ。