嘘をついているつもりはない。
 でも、それが嘘、勘違いであることはわかっている。


 ハルの恋人はあの人。だから、浮気も何もない。
 そして、アキはあの人の妹。元カノのわけがない。


 アキは信じられないと言わんばかりに顔を顰める。


「何言ってんの?」
「これが、私が記憶していること……私の記憶は、曖昧で……」


 私はなんだか怖くて、アキの顔を見れなかった。


「……ヒナが悲劇のヒロインぶってるのもそれに関係してたりして」


 俯いていたら、そんな声が聞こえてきた。
 アキが怒っていないことにも驚いたが、その考察にも驚いた。


 そう言われて、私は今までの記憶を思い出す。
 確かにアキが言うように、なんで私ばっかりと思っていたのも、ずっと嫌なことしかなかったからだ。


「私の記憶は、嫌なことしかないけど……でも、なんで……それと、私の性格、どう関係が……」
「私の中のハルさんは、不幸なんか知らないみたいな人だった」


 私の言葉を遮るように、アキが話し始めた。


「そして、ハルさんはものすごく優しい人だった。他人の傷を、まるで自分の傷のように悲しむことができる人」


 アキの表情はどこか優しいような、だけど厳しいような雰囲気だった。
 しかし、ハルという人は私とは真逆の人間だとでも言いたいのだろうか。