「帰るよ」


 まさかの言葉に、開いた口が塞がらない。


「協力しないお兄ちゃんのところになんかいられないでしょ。私も一人暮らしだし。荷物、さっさとまとめて来て」


 アキの言葉には迷いがなかった。
 それになぜか圧倒されて、私はしり込みしてしまう。


「私のはもともとない……」
「じゃあもう行こう」


 そして私はあの人の家を出た。
 玄関を出るまで、あの人と目が合うことはなかった。


 やっぱり私は邪魔者でしかなかったんだと思い知らされた。


「あんなに薄情な人間だとは思わなかったなあ。ね、ヒナ」


 あの人のマンションを出て、先を歩くアキが振り向きざまに言った。


「私は一か月しかあの人のこと知らないし……というか、どうして呼び捨て?」


 また呼び捨てされて、私はそう質問していた。


「ハルさんはお姉さんって感じがするけど、ヒナはなんか……子供っぽい」


 急に貶された。
 だけど距離のない感じが、友達ができたような感じがして嬉しかった。


「よし、着いた。ここが私の家」


 そして私はアキの服を借り、ご飯を作ってもらった。
 何も話を進めていないが、昨日布団で眠っていなかったせいで、布団にもぐった私はすぐに眠りについてしまった。