そんなこと、まったくもって考えてなかった。


「怖い?」


 そんなことを聞いてくるアキは意地が悪い。
 消えるかもしれないと言われて、怖くない人なんているのだろうか。


「それでも私はハルさんに会いたいから、あんたに協力するけどね」


 なんだか複雑な心境だった。言葉にすることすら難しい。


「お兄ちゃんは?」


 アキはずっと黙っていたあの人に話を振った。
 あの人は目を泳がす。


「この人に協力、するの?」
「……俺は……」


 その人は言葉を濁す。初めて見る君の戸惑いの表情に、頼りないと思ってしまった。


 一か月この人のそばにいて、私はあの人の優しさに触れ、甘え、すがっていた。
 その優しさが、ハルのものだったのだと、改めて思い知らされる。


 だが、もし本当にハルへの優しさならば、私が消えることへの協力はするだろうに。


 ……自分で言っておきながらなんだが、それはそれで結構悲しい。


「するしない、さっさと決めてくれない?」
「……しない」


 驚いた。
 私の聞き間違いかと思ったが、アキも驚いていたから、そうではないらしい。


「……わかった。ヒナ!」


 アキは立ち上がると同時に、私の名前を呼んだ。


 ハルはさん付けなくせに、私は呼び捨てなのか。