雨の音がする。
 ただ一定の音が耳を独占していく。その音があまりに耳障りで、私は目を開けた。


 すると、私が起きたのがわかったかのように、ノックの音がした。
 返事をするより先にドアが開く。


 その人は私が起きているのを確認すると、部屋の中に入って来た。


「ご飯できたよ。起きれる?」


 その人は優しい声で私を起こしに来た。私はゆっくりと体を起こす。
 そっと私に触れようと手を伸ばしてきたから、私はその手から逃げる。


「……触らないで」
「ごめんね。さ、朝ご飯の時間だよ」


 その人は妖艶に微笑み、部屋を出ていく。
 一人になった空間に、ひどく安心する。


 ベッドから降りて部屋着に着替える。


 自分でもおかしなことをしていると思う。
 この世で一番嫌いな、憎い相手とこうして同居をしているのだから。


 それでも、私はこの家を出ることはできなかった。
 私にはここ以外に帰る場所がない。


 同居が始まったのは、一か月前だ。
 当時私には恋人がいた。結婚も考え、同居もしていた。


 だけど、彼は浮気をしていた。私以外の女を愛していたのだ。


 私はその浮気現場を見た瞬間、家を飛び出した。
 無計画に、何も持たずに。


 そのとき、私はあの人に出会った。