母の手にソッと我が手を重ねるが、母には全く霊感がないようだ。ドラマみたいに触れた手を見つめ、『ここに貴女がいるのね』などという言葉は一切ない。
現実とはこんなものだ。分かってはいたが、何となくガッカリだった。
母の背を見送っていると、何かに引っ張られて気付けば中庭に立っていた。

「お父さん?」

噴水前のベンチに一人の男性が座っていた。やはり父だった。だが、いつものような精悍とした姿はそこになかった。

「透子、ごめんな。父さん、意気地なしだから、お前の病室に行けない。姿が見られない……」

父の視線が私のいる部屋の方を見る。

(意気地なし? あれだけいつも偉そうにしているのに?)
「女性は子供が産めるほど強いと言うが、本当だな。二人も生んだ母さんは強い」

確かに母は強い。

「いつかは透子もお嫁に行って――いや、お前は嫁には出さず養子を迎え、一生側に置いておこうと思っていたのに……」
(この期に及んで、何を勝手なことを言っているのだろう?)
「お前が可愛くて仕方なかった。できの悪い子ほど可愛いと言うのは本当だな」

おいおい、と思わず突っ込みそうになるが――父の言い方があまりにも父らしく……涙が溢れ出てきた。