「千帆!」


公園に着いていつものベンチに向かうと、私の姿に気づいたクロが笑顔で立ち上がって手を振ってきた。


「よっ」


「……うん」


軽い挨拶をした彼にどう返せばいいのかわからなくて小さく頷けば、眉を寄せて笑われた。


「相変わらず愛想がないな」


クロの眉間には皺が寄っていたけど、それが苦笑とは違う楽しそうな笑顔だというのがわかった時、なんだか少しだけホッとしている私がいた。


噴水の横の時計は八時五分を指していたけど、彼は特に気にする様子もなくベンチに座るように促してくる。


いつものように微妙に距離を取って座ると、クロは早速「どうだった?」と訊いてきた。


前置きもなく、最初から本題に入る彼は、結果を聞くのを心待ちにしていたのかもしれない。


そんな風に感じてしまい、答えたあとにがっかりされることが目に見えたせいでなかなか口を開けなかったけど……。


「誰かと挨拶できた?」


程なくして、クロが優しい声音で質問を紡いだ。


「……うん」


私を見つめる彼の視線を感じたけど、そこに視線を合わせることなく、伏せた瞳で短く答えるだけで精一杯だった。


理由はわからないけど、彼のがっかりした表情を見るのが怖かったから……。