見開かれていた堀田さんの瞳が瞬きを始め、彼女が状況を把握しようとしていることに気づく。


いつの間にか鼓動は速くなっていて、心拍数が上がった分だけ緊張している自分自身を落ち着かせることに必死だった。


しばらくしても反応がないことに怖くなって、とうとう堀田さんから視線を逸らしてしまった。


「……おはよう」


その直後、たしかに右隣から聞こえてきた声に目を大きく見開き、勢いよく顔を上げて彼女を見た。


だけど……。


堀田さんは、もう私から視線を外して反対側の席の子と話していて、なんでもいいから会話を繋げようと思っていたのに、楽しげな雰囲気を目の当たりにして声を掛けることはできなかった。


正直、せっかく挨拶を返してもらえたのに、それだけで終わってしまったことが残念だった。


昨日までの私ならそんな風に感じることはなかったはずで、自分自身の心境の変化に戸惑いが芽生える。


その原因は間違いなくクロで、たった数日でこんな感情を抱かせられたことに驚いた。


挨拶を返してもらえたことに安堵したし、少しだけ嬉しくもあったけど、彼はどんな反応を見せるのだろう。


ふと感じた疑問に対して私が予想した答えはいいものではなくて、思わずため息が落ちた──。