別に、それでもいい。


そんな風に思うはずだったのに、心の中だけで漏れたのはまったく違う声。


なんか、それは……。


“嫌”と続きそうになったことにハッとして、慌ててそこで言葉を止めたけど、予想もしていなかった自分自身の反応に戸惑ってしまう。


クロに振り回されてばかりなのが、悔しかったからなのか。


それとも……。


もうずっと、外では私のことを見てくれる人がいなかったからなのか。


ふと浮かんだ理由が本心なのかはわからなかったけど、次の瞬間には顔を上げて右隣を見ていた。


すると、ひと呼吸の差で同じように顔を上げた堀田さんと目が合い、すぐに怪訝な表情を向けられた。


「ねぇ、やっぱりなにかある──」


「おっ、おはようっ……!」


彼女の口から疑問が出し切られる前に発したのは、昨夜から頭の中で何度もシュミレーションしていた言葉。


それは、なんてことのないただの挨拶。


だけど、必要に迫られなければ私から声を掛けることなんてないことはクラスメイトのほとんどが知っているから、堀田さんが驚きのあまり言葉を失っているのが見て取れた。


彼女に見せられた反応が予想通りとは言え、ようやく勇気を出せた私の心は不安でいっぱいになった。