「あ、別に……」


咄嗟に答えて瞳を伏せたあとで、すぐに心が後悔に包まれた。


とりあえず挨拶をしてしまえばどうにかなったのかもしれないのに、自分からチャンスを棒に振るなんて……。


いくら人と関わりたくないとは言え、予想以上に厄介な性格にため息が漏れそうになる。


ただ要件を伝えるだけならできるのに、自分から歩み寄る姿勢を見せて声を掛けることは思っていたよりも難しくて、早くも心が折れかけているのがわかった。


「……そう」


程なくして堀田さんがぽつりと零し、その声に反応したかのように机にへばりついたままの視線が泳ぎ出す。


ここで諦めて開き直ってしまえば、こんな憂鬱な気持ちは捨ててしまえるのだろうか。


クロとの約束なんてなかったことにしてもう公園にも行かなければ、彼だって私のことなんて気にしないかもしれない。


私が公園に行かなければ学校に来るとまで言われたけど、よくよく考えれば本当にそんなことをする確率は低いような気もして、こんなにも悩む意味はないのではないかと思えてくる。


だけど……。


それはつまり、脳裏に焼きついたままのクロの笑顔がもう見れなくなるのかもしれないということだと気づき、同時に胸の奥がチクチクと痛んだ。