諦めかける度にクロの笑顔が脳裏を掠め、心の片隅にあった小さな罪悪感がみるみるうちに膨らんでいって、嘘をつくことに抵抗を感じてしまった。


たったひと言を紡げずに開いては閉じる唇は緊張で震えそうになっていて、こんなつまらないことに不安を感じるくらいなら、いっそのこと適当に誤魔化したかったのに……。


私の頭の中で笑っている彼の真っ直ぐな瞳がまるで私の心を揺さぶるようで、そうさせてくれそうにないことに気づいた。


ひと呼吸置いて、大丈夫、と自分自身に言い聞かせ、ゆっくりと深呼吸をする。


一気に言ってしまおうと決めて勢いよく隣を見ると、堀田さんと視線がぶつかった。


その瞬間、予想外のことに焦って、喉元に用意していたはずの言葉を飲み込んでしまう。


挨拶をすればいいだけなのに、要件以外のことを話そうとするだけで緊張して冷静になれないなんて、とても情けなく思えて……。


「なに?」


視線を泳がせながら必死に思考を働かせようとしていると、彼女が怪訝そうに尋ねてきた。


「……え?」


「さっきからずっと、チラチラ見てたでしょ?」


声を掛けられたことに驚いて目を小さく見開いた私に、堀田さんは表情を変えずに小さなため息混じりに零した。