ふと、噴水の隣にある時計を見ると、二十二時まで残り十分ほどになっていた。


「もうこんな時間か」


クロもそれに気づいたらしく、隣から慌てたような声が聞こえてきた。


「千帆」


焦り混じりの声音に思わずつられて、背けていた顔を戻してしまう。


素直に頷いたばかりだったからなんとなく気まずさがあったけど、彼の方はそれどころじゃないと言わんばかりに間髪を容れずに続けた。


「とりあえず最初のステップは、今週中に誰かと話すこと」


「は?」


「ちゃんと会話するんだぞ。まずは相手の名前を呼んで挨拶して、それからなんでもいいから他愛のない話を振ってみろ」


「ちょっ、ちょっと待ってよ! 今週って、もう明日しかないんだよ⁉︎」


いくらなんでも、最初のステップのハードルが高過ぎる。


もともと人付き合いが苦手だったうえに、この三年間は学校でも塾でも必要最低限の会話以外したことがないのに、たった一日で挨拶どころか私から話を振るなんて……。


「私、必要最低限のこと以外、先生ともほとんど話したことないんだけど!」


「でも、やるんだよ」


胸を張って言うようなことではないけど、戸惑いを隠せなくてつい強く言ってしまうと、クロが真剣な表情を見せた。