「温もりを失くしてしまう瞬間の恐怖を知ったら、殻に閉じこもりたくなるのはわかるよ。それでも、どこかで踏み出さないと、ずっとこのままの状態になるかもしれない。そんなの、本当は寂しいだろ?」


クロになにがわかるの、とは言えなかったのは、彼の顔がまるで傷ついているようにも見えるほどに真剣だったから。


強引に私との約束を取りつけたクロからは想像できない痛々しい表情が、なぜか胸の奥を痛くする。


友達ですらない彼のことなんてどうでもいいはずなのに、心で痛みを共有しているかのようで、そんな自分自身に戸惑った。


程なくして私の瞳を真っ直ぐに見据えたクロに、思わず息を呑む。


目の前にいるのに今にも消えてしまいそうなほどに儚げに見えるのは、彼の漆黒の瞳が悲しそうだからなのかもしれない。


こんな風に見つめられたら視線を逸らせなくて、逃がしてはくれない瞳に鼓動が跳ねる。


同時に、内側から熱が込み上げるような感覚を抱き、初めて味わうその正体がわからなくて少しだけ怖くなった。


「千帆」


戸惑いと小さな恐怖を感じていた私の名前を紡いだのは優しい声音で、温かみのあるクロの声を耳にした瞬間、心を包んでいたそれらの感情がそっと溶かされるように和らいだ。