すっかり定位置になった公園のベンチに並んで腰掛けると、クロは「早かったな」と笑った。


噴水の傍に立っている時計はまだ二十一時半になっていなくて、思っていたよりも早く着いたことに気づく。


「走って来た?」


「そんなわけないでしょ。普通に歩いて来たよ」


本当は、塾から駅までは早歩きしたし、駅の階段は駆け上がった。


「こんな暑い日に走るわけないじゃない」


電車を降りてからも足早に歩いていたような気もするけど、彼にはそんなことを知られたくなくて冷静に話した。


どんよりとした空のせいか、今日は一日中ジメジメとしている。


降りそうで降らない雨は、空気中に微かな匂いを漂わせていて、その存在を主張しているようだった。


「そっか」


小さく笑ったクロには、すべてお見通しだったのかもしれない。


本当なのか嘘なのかはわからないけど、彼は自分自身のことを超能力者だと謳っているのだから、訊くまでもないことだったのではないかと思う。


「あんまり時間ないし、とりあえず始めるか」


つまらないことに思考回路を働かせていた私は、明るい声を聞いた瞬間になんとなく考えるだけ無駄のような気がしてしまって、クロの言葉に同意するように視線を合わせた。