「それは同意するけど、千帆の考え方に共感はできない」


不意に冷静な表情になったクロは、体勢を戻してから私の瞳を真っ直ぐ見つめた。


私は、彼のこの瞳が苦手だ。


すべてを見透かすような黒くて真っ直ぐな瞳は、まるで心を強く捕らえるかのようで、なにも言えなくなってしまいそうになるから。


「千帆は、本当に今のままでいいと思ってる?」


「思ってるよ」


「本当に、心の底からそう思ってる?」


「お……思ってる、よ……」


じっと見つめられて心臓が跳ね上がり、答えが途切れたようにしか出てこなかった。


「じゃあ、一生そうやって生きていくのか?」


真剣な顔で紡がれた“一生”という言葉がやけに胸に伸し掛かって、すぐに言い返せなかった。


一生、なんてわからない。


十七歳の私にとって人間の平均寿命は長過ぎて、それが私にとっての一生になるのなら不安で気が遠くなる。


いつか結婚して家族ができるのかもしれないけど、友達すら作れない私に恋人ができるとは思えない。


そんな私の考えを読み取るかのように、クロが眉を寄せて微笑した。


「本当は、千帆だって今のままじゃダメだってわかってるんだろ?」


そして、彼は頑なな私を諭すように優しく尋ねた。