「じゃあ、こうしよう」


意図せずに下りた沈黙を先に破ったのは、クロだった。


「明日の夜までに、学校で同級生と連絡先を交換して来てよ。そしたら、俺は全部潔く諦める」


全部、になにが込められているのか。


程なくして文字通りなのだと理解した私に、彼がにっこりと笑った。


二年以上在学して、同級生はもちろん、全校生徒の誰とも連絡先を交換したことなんてない。


いじめられこそしていないものの、入学式の頃を除けば一匹狼の私に関わろうとする人なんていなかったから。


だから、学校でまともな会話をした記憶がほとんどない私にとって、誰かと連絡先を交換するなんて安易ではない。


クロはそれも見透かしているから、そんな提案をしたのだろう。


「それが無理だったら、大人しく一ヶ月間付き合ってよ」


「……私、不利じゃない」


「そう? ……あ、もしここに来なかったら家まで迎えに行くし、それでもダメなら学校に乗り込むから」


脅迫めいた内容と話が通じないことに、呆れてしまった。


家に来られるのはもちろん、学校にまで追ってこられたらどんな噂が立つかわからない。


疲れ切ってため息を漏らした私を余所に、クロが私に複雑そうな笑みを向けたあとで夜空を仰いだ──。