「交換条件だよ」


クロの言葉で察したのは、抱いた嫌な予感が的中しているだろうということ。


「千帆に一ヶ月間付き合ってもらう代わりに、俺は千帆に友達ができるように協力する」


にっこりと向けられた笑みに目眩を覚えながらも、慌てて口を開いた。


「一ヶ月も付き合えるわけないでしょ! 私、受験生なんだってば!」


「勉強の邪魔はしないよ。なんなら、俺と会ってる時に暗記とか手伝うけど」


「いっ、いらない! 私はひとりで勉強したいの!」


「じゃあ、ダメか」


「問題はそこじゃない!」


「千帆、成績はいいだろ? 大丈夫だよ」


「そうじゃなくて、勉強時間を削ってまでやる必要ないって言ってるの!」


「なに? やっぱり怖気づいた?」


「違う! 別に怖くないって言ってるでしょ!」


無謀なやり取りが続き、息が乱れ掛けていることに気づいた。


こんな風に誰かと話したのはいつ以来だろう、なんてことが頭の中を過る。


両親とは別に喧嘩をしないし、そもそも短い会話でそんなところにまで発展しない。


学校や塾では必要最低限の言葉で済ませてしまうし、ツキには毎日話し掛けてはいても“会話”にはならないから、こんなにも長く人と言い合った記憶は中学生以来かもしれない。