無意識のうちに俯いていた私は、クロが立ち上がったことに気づいてさらに一歩後ずさった。


顔を上げてみたけど、彼は昨夜会った時みたいに別に慌てる様子もなくて、相変わらず顔には真剣さを纏っている。


ふざけているのなら、もっと強く言えたのかもしれない。


だけど、真っ直ぐな瞳からはどうしてもそんな風には思えなくて、苛立ちと戸惑いが同居する。


「もし俺が千帆のペットで、千帆が俺だけを友達だと思ってるなら、嬉しさよりも心配になるよ」


不意に眉を下げたクロは、まるで本当に私のことを心配しているような顔つきになった。


「ペットを大切にすることは悪いことじゃない。でも、ペットがいるから人間の友達はいらないって言うのなら、それは違うだろ」


「別にそんなんじゃない……。私は、ただ……」


「人と接するのが怖い?」


「……っ、違っ……!」


思わず口ごもった私は、彼の見透かすような瞳と言葉に心を突き刺されるようで上手く否定できなかった。


別に、怖くなんてない。


ただ、どうせ無駄になると思っているだけ。


「だったら、今からでも学校で友達を作ってみれば?」


だから、挑発するような笑みを浮かべたクロから、一瞬も視線を逸らさなかった。