「信じないなら誓約書でも書こうか?」


「私はあなたのことを知らないんだから、そんなの意味ないじゃない」


誓約書というのは、それぞれに自分自身を保証できるものがあるから交わせるのであって、クロのことをなにも知らない私にはただの紙切れにしかならない。


「なんなの、あなた……。なんで私のこと……」


「超能力のおかげ、ってとこかな」


嘘なのか本当なのか、クロの笑顔はそれを悟らせない。


嘘っぽいのにそうではないような気がしてくるのは、彼の纏う雰囲気にはどこか安心感にも似た柔らかさがあるからなのかもしれない。


凪いだような穏やかな空気感なのに、心中はまるで嵐みたいに掻き乱されるようで、その相反する状況に戸惑いを隠せなかった。


「俺、もうすぐこの街からいなくなるんだ。その前に思い出作りっていうのかな……まぁ、そういうのをしておきたくなってさ」


立ったままの私に、クロが自分の隣をポンポンと叩く。


空いたベンチに腰掛ける気にはなれなくて動かずにいると、彼は困ったように笑ったあとで真剣な表情を見せた。


「ずっと前から、ひとりぼっちの千帆のことが気になってたんだ」


そして、クロの口から零されたのは、自分自身がよく知っていることだった。