「あ、まずは自己紹介からか」


ひとり呟くように言った男性の名前をまだ知らなかった私は、思わず彼の顔を見てしまった。


これではまるで私が彼のことを知りたいと思っているみたいだと気づいた時には、人懐っこさを携えた満面の笑みを向けられたあとのことだった。


「えーっと……俺はクロ。たぶん二十歳くらい」


「は?」


自分の年齢を“たぶん”とか“くらい”とか言われれば、おかしいと思うのが普通だろう。


すっかり忘れていたけど、彼は自分のことを超能力者なんて言う人だった。


「なんで年齢がいい加減なの」


「あー……。俺、捨てられてたから?」


疑いの眼差しを向けると、返ってきたのは紡がれた言葉に似つかわしくない明るい声。


「え?」


予想だにしなかった答えのせいで反応がひと呼吸遅れた私に、クロがごく普通にニコッと笑った。


「だから、ちゃんとした年齢ってわからないんだよね。でも、だいたい合ってると思うから気にしないで。年齢なんて今は関係ないから、気にする必要もないし」


言葉が出てこなくて無言で頷くと、彼は困ったような笑みを浮かべた。


「なんで千帆がそんな顔するんだよ。俺、いい人に拾って貰ったおかげで幸せだから、しんみりしないでよ」