「い、行かないよ……。私が行く必要はないんだから」


自分自身に言い聞かせるように零したのに、罪悪感が芽生えてくる。


行かない。絶対、行かない。……別に行かなくていいんだってば。


心の中で呪文のように繰り返しながらも時計を見てしまうのは、やっぱり気になっているからなのだろうけど……。


行く義理があるのかないのかという以前に、そもそも私は人と関わりたくない。


学校ではクラスメイトとすら極力接しないようにしていて、塾だって地元の有名どころを避けてわざわざ自宅の最寄駅からふたつ先にある個別指導を選んだ。


そんなことまでしている私が、どうして名前も知らない人のことを気にしなければいけないのか。


他人に心を掻き乱されるのは、もう嫌……。あんな目に遭うくらいなら、最初から誰とも関わらなければいい。


そう思っているからこそ、私は高校生になった今も人と関わることを避けているのに、なぜか昨日の男性の真剣な瞳と無垢な笑顔が頭から離れなくて、記憶に焼きつくように私の中に居座る彼のことを気にせずにはいられない。


「あー、もう……。ちょっとコンビニに行ってくるね」


ため息をついた私を玄関まで見送ってくれたツキは、どこか嬉しそうに「ニャア」と鳴いた。