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「ただいま」


ジリジリと照りつける太陽と蟬時雨を浴びながら帰宅すると、いつものように誰もいない家で独り言を零した。


相変わらず忙しい両親は以前にも増して家にいる時間が減り、私を出迎えてくれる人は誰もいない。


すっかり慣れた環境に息をついて部屋に行き、再び口を開いた。


「ただいま」


その声にもやっぱり返事はないけど、代わりにチェストの上に置いてある首輪の鈴を指先で弾いて、チリンと鳴らす。


そうすればまるでツキの声が聞こえてくるようで、そっと微笑みが零れるのだ。


エアコンを点けて床に置いたバッグから荷物を出し、その中のひとつを手に取ってパラパラとめくっていった。


もうすぐ提出予定のこのレポートは今日の講義の空き時間に無事に終わり、あとは最終チェックをすればいいだけ。


机に向かって教科書と資料用の本を開くと、シャーペンを片手にレポートの見直しを始めた。


本棚や机に立っている教科書や本には、【心理学】や【心理カウンセラー】の文字が入ったものばかりが並んでいる。


十八歳の誕生日から、もうすぐ三年──。


大学生になった私は、あの日にやりたいと感じた心理カウンセラーになりたくて、猛勉強の日々を送っている。