「クロ……?」


たった今、たしかに聞こえてきたはずの声はまるで空耳だったのだと思わせられるほどに、目の前には人の気配がまったくない。


思わず走り出したけど、どこを探してもクロに会えないことは心のどこかではわかっていて、いつものベンチや雨の日に過ごした土管の中を探してみたあとで、さっきまで彼が立っていた噴水の前で足を止めた。


ふと、水面を見ると小さな満月がユラユラと浮かんでいて、吸い寄せられるように視線を上げて本物を見つめた。


もしかしたら、クロは満月の中に消えてしまったのだろうか。


そんな風に思えるほど彼の痕跡はどこにもなくて、バカげた考えだとわかっていても月から視線を逸らせなかった。


ツキと出会ったのも、クロと出会ったのも、そして彼との別れも……。


まるで月に操られているように、すべて満月の夜だった。


「クロ……」


小さく呟いた名前は夜空に吸い寄せられるようにして消え、同時にこらえていた涙が頬を伝ってポロリと零れ落ちた。


十八歳の誕生日は、人生で一番悲しくて、寂しくて、切なくて。


だけど……。


夏の星空の中で静かに輝きを放つ綺麗な満月を見つめながら、胸の奥には温もりと優しさの光がそっと灯っていることを感じていた──。