瞼を閉じて大きな深呼吸をひとつ落とし、ゆっくりと瞳を開いてから背筋を伸ばす。


グッと前を向いた私は、一歩を踏み出した。


一歩、また一歩……。


一瞬でも立ち止まればクロに縋りついてしまうとわかっていたから、彼に言われた通り振り返らないように歩いた。


唇を噛みしめて涙をこらえながら背筋を伸ばしたままでいたのは、クロの瞳に映る私の後ろ姿が悲しい記憶になってほしくなかったから。


せめて少しくらい凛とした姿を、あの黒目がちの瞳に焼きつけて忘れないでほしい。


彼から離れていくにつれて、頭の中では走馬灯のようにたくさんの思い出が流れていく。


クロとの思い出はもちろん、ツキとの日々もたくさんの思い出が溢れていて、それらが尽きることはない。


頭も心も悲しみでいっぱいになって、とうとう泣きそうになった時……。


「十八歳の誕生日、おめでとう」


背後から優しい声が届いて、瞳を大きく見開いた。


「……っ! クロっ……!」


涙混じりに彼の名前を叫ぶようにして振り返ったのは、その直後のことだった。


クロとの約束を破ってしまうことになるけど、最後にもう一度だけ彼の姿を見たかった。


だけど……。


視界に入ってきたのは、誰もいない景色だった。