ゆっくりと離れていく、大きな手の温もり。


クロの体温を感じる術を失くした私は、眉を寄せて立ち上がった彼を追って腰を上げると、思わずその手を掴んだ。


「千帆……」


左手で掴んだクロの右手にもう片方の手を添え、縋るようにギュッと包む。


その直後、彼の右手首の辺りにある傷痕が視界に飛び込んできて、それがツキの右前足にあったものだと気づくまで時間はかからなかった。


私たちが出会う前に、クロが受けた傷。


そこにそっと指を這わすと、彼がふっと笑ったのがわかり、顔を上げた。


すると、今度はクロの左手が私の手に触れ、私は自然と彼から両手を離していた。


「千帆のこと、たくさん引っ掻いてごめん……。優しくしてくれたのにずっと信じられなくて、本当にごめん……。痛かっただろ?」


「ううん。……ツキがつらい目に遭ったんだって思うと、あんな痛みくらい全然平気だったよ」


小さく笑うと、クロは微苦笑を零した。


「やっぱり、千帆は優しいな」


「……っ」


「そんな顔するなよ。千帆はちゃんと変われたんだから、俺がいなくても大丈夫だよ」


優しい言葉に胸の奥が締めつけられて顔を歪めると、彼がさらにそんなことを言ったから、また涙が零れ落ちてしまった。