満月の下で微笑み合う私たちの周りはとても静かで、この世界にふたりきりでいるようだった。


公園の前を通り過ぎていく車の存在はたしかに感じているのに、その音は随分と遠くから聞こえてくる。


切り離されたような空間はどこか遠い世界で、もしかしたら夜空に浮かぶ満月の中にいるのではないかという錯覚に陥り、ふたりだけで綺麗な月の中に沈んでいくような不思議な感覚を抱いた。


それはまるで、時間が止まったかのように思えて、このままずっとクロの温もりを感じていられるような気がした。


だけど……。


「そろそろ時間だ……」


そんな風に感じることを許されたのは夢物語の中にいられたほんの一瞬だけで、彼が切なさを孕んだ声で小さく零した。


時間は、別れの時に向かって刻まれていく。


私の願いを嘲笑うように刻一刻と進んでいた長針は、“12”の手前まで来ていた。


クロはきっと、私の寂しさと悲しみに気づいている。


だから、困ったような顔をしているのだろう。


「ルールなんだ……。この姿でいられるのは一日一時間だけで、今日までに千帆に正体がバレたらその時点で終わり。そういう約束だったから……」


瞳を僅かに伏せた彼は、寂しげな笑みを浮かべながら時計を見上げた。