「少女は、両親や猫以外に親しい人がいなくて、いつもひとりだった……。そしてある夜、少女は猫にその理由を打ち明けて、それを聞いた猫は心配でたまらなくなったんだ」


悲しげな声音で語られた内容に、もうほんの欠片も疑うことはできなくなった。


誰かに笑われても、たとえバカにされたとしても、私には信じることしかできない。


あぁ、そっか……。そうだったんだね。だから、クロはずっと……。


クロが私のことを色々と知っていたことも、彼が自分のことを話そうとしなかった理由も、今ようやくわかった。


「今は少女の傍にいられたとしても、いつかきっと離れなければいけない時が来る。そう考えた猫は、自分がいなくなったあとの少女のことを案じた」


クロとツキが、重なって見える。


姿はまったく違うのに、真っ直ぐな瞳はツキの瞳そのものにしか思えない。


「だから、猫は少女のためになにかしたいと思った。少女からもらったたくさんの優しさをほんの少しでも返せるのなら、どんなことでもできると思ったんだ。……たとえ、その命を縮めることになったとしても」


「え?」


「千帆、俺は……」


不安を呼び起こした言葉に目を大きく見開くと、彼は一度瞳を伏せてから優しい眼差しで私の瞳を捕らえた。