クロに促されて噴水に背を向けて腰を下ろすと、布一枚を隔ててひんやりとした感触が肌に届いた。


鼓動が速くなっているのは、彼が隣にいるせいか、それとも……。


「千帆」


不意に、心音に戸惑っていた私を呼んだクロは、目が合うと笑みを消した。


視線が静かに絡み合い、お互いを真っ直ぐに見つめる。


「今日は、千帆との約束を守るつもりで来た。でも……気が変わったなら俺のことは話さないから、いつもみたいに過ごそう」


ほんの僅かにぶれることすらなかった彼の瞳が私を射抜き、色々な感情がグチャグチャに混ざり合った心を捕らえる。


その最中、迷いが生じた。


ずっとクロのことを知りたいと思っていたけど、もしここですべてを聞いてしまったらもう本当に取り返しがつかないような気がして……。


なにも聞かずにいれば別れが来ないと言うのなら、今は彼の素性なんて知らなくてもいいと思えた。


「どうする? 最後だから、千帆に選ばせてあげるよ」


だけど、クロの口から出た“最後”という言葉にハッとさせられ、たとえ私がどちらを選んだとしても彼の選択は変わらないのだと改めて思い知らされた。


だったら、なにも知らないままで終わるよりも、ちゃんと知りたいと思う。


だから……。