これでよかったのだと自分自身に言い聞かせるためにギュッと閉じた瞼の裏で、クロの笑顔を思い出してしまった。


離れているはずなのに、まるで図ったようなタイミングで私の心の中に現れた彼なら、こんな私にどんな言葉を掛けるのだろう。


ノートを借りた時と同じように、きっとがっかりさせてしまう。


『変わりたい』と告げた気持ちに嘘はなくて、私の想いを聞いたクロは優しく笑ってくれた。


背中を押し続けてくれる彼の想いに応えるためにも、自分自身の過去と向き合うためにも、今ここで勇気を出さなければいけないと強く感じて……。


「あのっ……!」


なによりも、優しい笑顔があの時のように曇っていくのをもう見たくないと思った直後、意を決して瞳を開くと同時に声を発していた。


すると、堀田さんと中野さんが驚いたような面持ちで私を見た。


「どうしたの?」


ふたりの視線に不安が大きくなって拳をキュッと握り、落ち着くために深呼吸をする。


「そ、その問題……解けたの……」


震えそうな声で紡いだ言葉は教室内の喧騒に掻き消されてしまったけど、すぐに堀田さんが嬉しそうに笑った。


「本当!? 教えてくれる?」


その笑顔に胸を撫で下ろし、不安と戸惑いを残しながらも控えめに頷いた。